横須賀老人ホーム駒澤大学
介護の現場レポート
令和5年度厚労大臣表彰を受けた「横須賀老人ホーム」は、組織改革によりケアの質と定着率を向上させた点が大きく評価されました。
全職員を対象とした面談を機に現場の声を吸い上げる仕組みを作り、提案の約9割を実現したといいます。この風通しの良さがサービス向上と働きがいにつながっているようです。
職員の不満をどう改革へつなげたのか、関係者にその道のりを伺いました。
■103人との対話から
「厳しい言葉が多く並びましたが、単なる不満とは捉えませんでした。現状を嘆く言葉は「職場を良くしたい』という職員の強い向上心の裏返しであり、改革へのエネルギーになると確言したからです」。そうキッパリ話すのは佐野芳彦所長です。
職場改革がスタートしたのは平成31年。所長に着任したばかりの佐野さんによる全正規職員103人との面談がきっかけとなりました。3カ月を費やした対話の中で、職員から寄せられた意見の7割は組織に対する不満だったといいます。実際に面談を行った職員の方に意見を聞きました。「最初は、どこまで話していいのか?というのが正直な気持ちがありましたが、所長から『なんでも話していい。なんでも聞くよ。』といっていただき、不満というよりは、今こうしたいけどできない状況にあるということを伝えました。」このことから、103名の従業員の意見を取り入れられた実績は、所長の人柄の良さも影響しているのだろうと考えました。
■ 直訴制度で「壁」を除く
現場の意欲を具体化するため、佐野所長が導入を図ったのが、「職員提案制度(リバイバルプラン)」です。最大の特徴は、中間管理職を通さず、職員が所長に直接提案できる点です。
月1回開催される委員会では職員自身が案を発表するほか、発言をためらう職員のために、所長のみが開錠できる目安箱も設置しました。上司の決裁で意見が通らなくなる懸念を排除し、現場の声が経営層へ直接届くルートを確立しました。この確率は従業員の改革モチベーションにも繋がり、より提案する従業員が増える取り組みだと感じました。
制度導入後、利用者の生活をより良いものとするためのイベントの考案や、職員自身の働き方に関する意見等約70件もの提案が出され、そのうち85~90%が実現に至ったといいます。
■ ケアの質と採用への波及
現場発のアイデアは、利用者の生活環境の向上につながっています。動物との触れ合いを目的とした「アニマルセラピー」の導入や、施設内で買い物を楽しむ「服屋イベント」の開催など、職員が肌で感じた利用者のニーズが次々と形になりました。「服やイベント」は、利用者から直接「買えなくてもいいから買い物がしたい」と言われたことがきっかけだったそうです。利用者の希望を叶えたいという思いから意見を出し、行動に移せる従業員が在籍していることも、横須賀老人ホームの魅力の一つだと感じました。また、職員の働きやすさも改善されています。5日以上の長期連休を推奨する「リフレッシュ休暇」や、若手・中途職員の孤立を防ぐ交流会など、どれも「職員が利用者や仲間を思ったアイデア」から生まれました。
こうした「意見が通る職場」としての評判は施設外にも波及しており、研究発表会への関心の高まりや、視察希望の増加につながっています。採用活動においても、風通しの良さが求職者への強い動機付けとなりました。
■ 継続への課題
一方で、改革はまだ道半ばだといいます。取り組みの継続的な評価手法の確立や、制度運用がトップの熱意に依存しがちである点、会議に参加しない職員との温度差解消などが今後の検討事項です。
佐野所長は今後の展望について、「職員一人ひとりに仕事において楽しいことや嬉しいことを沢山経験してもらうために、何かあった時に相談できるというようなシステムであったり、人間関係の構築に今後も尽力していきたいですね。」と熱く語りました。
【編集後記】
今回の取材を通して私たちが強く感じたメッセージがあります。それは、「声が届く職場は、良いケアを生む」ということ。職員の声を尊重する文化は、利用者一人ひとりの願いを叶えるケアにつながり、その積み重ねが施設の頼や地域での評価へと広がっていきます。横須賀老人ホームでは所長の提案で動いたことから、上の立場の人が動き出すことの重要性や授業員は常に施設の向上心を持ちながら業務に励んでいるということを学びました。この取り組みは、福祉現場に関わる全ての人にとって学びの多い実践だと感じました。今後も、同施設が掲げる“叶える介護”がどのように進化していくのか注目していきます。

